めぐさんより:「雨の小犬」への想い
今年の初めに今年はアルバム出します。と言ったきりでしたが、
ちゃんと、水面下でじわじわと制作しておりました。

やっとこさ報告できます。
「雨の小犬」
親愛なる岡崎律子さんからのタイムカプセル。

日ごろから物が捨てられず、増えていくばかりの、「モノ」たちの中。
台本だったり、ジャケットのラフだったり、衣装だったり、見本版のCDだったり。
デモ曲の入ったテープ。MD、CDR.などなど、
私の部屋は倉庫なみ…。
さすがに、キャリアとともにひたすら増えてゆくしかない「モノ」たちの処分をと考え、整理をしていると、コロンと出てきた「カセットテープ」

今はなきキングレコードの文字のはいった「カセット」
A面に「Good Luck」と「雨の小犬」と書かれていました。
まさかと思い、デッキにかけてみると(我が家にはまだカセットのダブルデッキがあるのぜよ)
なつかしい、愛しい、彼女の声
そして
for megumiと書かれた楽譜と歌詞も見つかった。

どうしよう、どうしよう、これ、どうしよう。

とはいえ、10年前の私に…。
当時のことを覚えている人も周りにはいなくて、想像するに、
ボス大月が、岡崎さんに曲の発注をしたところ、その時出す予定だったアルバムには若干世界観が異なると判断され、次回に持ち越し…のつもりが、忘れていた(ボスにはよくあることなのだ)。

で、
まず、何からすべき?
キリキリいいそうなカセットを現担当のシュクに渡して、眠っていた、というか、
ほったらかされていたこの何年かの間になんらかの形で誰かが歌っていたり、別の形で発表されていないかを調べてもらいました。
で、おそらく大丈夫。未発表ということになり…。
で、アレンジは誰にお願いしましょうか?
ということで
岡崎さんの曲を数多く手掛けている長谷川智樹さんに依頼することとなりました。

長谷川さんも大興奮。
やはり彼も岡崎さんの曲に餓えていたのだ。
喜びと切なさと、うれしさの中、
矢継ぎ早に
「もうないですかね、ほかには、岡崎さんの曲、もうどっかに残ってないですかね」
おおよそアレンジの方向性からは想像もつきえない「関西弁」で繰り返し、繰り返し…。
「おそらく、ないと思いますが、どっかにあったらいいですよね、とりあえず、私の手元にはないんだけど…。」
「キングのどっか、引き出しとか、どっか、どっかにないかなあ」
「引き出し…か…」
ありそうで怖いけど、たび重なるスターチャイルドのフロアー引っ越しの末、希望は薄いなあ。
逸る気持ちを抑えつつ、今はこの曲に集中してもらうことにしました。
ちょうどHappy life を発売したころの話。

手をつけたら、彼女との時間が始まって、そして終わってしまう
ご自身のスケジュールの過密さに加え、そんな気持ちも手伝ってか、そのままの状態で時が流れて行きました。
もちろん忘れていた訳じゃない。少しだけ棚の上に飾っておきたかったんですよね。
そして「いよいよ」の時が迫り、動き出したら早いもの。アレンジが完成し、
ちょっと、時を置いて、いよいよレコーディング。
2010年4月
岡崎さんの曲のレコーディングは、ほぼ完ぺきな彼女の仮歌のおかげで、
ついつい、下手なものまねみたいに、彼女の歌い方をなぞりたくなってしまうのです。 
今回はとくに。とくに。
でも、本当は岡崎さんが歌ったら「こうなる」をまねてはいけなくて、私の歌にしなくちゃいけない。なんかそれが辛かった。けど、結局、何回も歌っていくうちに、やっぱり、当然、私の歌になりました。そうなるべくして生まれた曲だしね。
そして、スタジオに彼女の姿はなくても、ソコには彼女への思いが充満してました。
苦しいくらいに。
ソファから立ち上がり、「うん、いい、すきすき、よかったよ」と微笑む彼女の映像は
脳味噌からいつでも取り出せる、いつでも反芻できる。

レコーデイング終了後、
「いやあ、よかった、うれしかった。
でも、もうないですかね、岡崎さんの曲…どっかに…」
長谷川さんの思いはつのるばかり…。
もちろん、私だってそうだ。

久しぶりに歌ってみて、やはり彼女の歌には、ほかの誰にもない、香りがある。
私を「めぐちゃん」と呼ぶ人も少なくなるキャリアの中、
(たいがいが、林原さんや、めぐさんだからね)
さらに、その「めぐちゃん」の強さと対極にあるくすぐったい場所の真髄を、無理なく、
温かく表現してくれるのは、やっぱり彼女しかいない。

ああ、終わっちゃった。さみしいなあ。

「おつかれさま」とスタジオを後にする。
トラックダウンの具体的な日取りも決めぬまま…。

でもでも、やっぱり最終作業の日はやってくる。
エンジニアはこれまた岡崎さんと縁の深い浅野さん。
すべて、きちんと整えられ、最終段階を迎えた「雨の小犬」
スピーカーから聞こえたその歌は…。

感じたことや、思ったことは沢山あるけど、
私がどう思うかより、聞いてくれた人がどう思うかが一番大事だし、
その楽しみを奪いたくないので、あえてここでは書きません。
私の感想を先入観としてとりいれて聞いたらもったいないもんね。
どうかどうか、心行くまで、あなた自身の心で味わってください。

そしていよいよ
お持ち帰り用CDRにレックして、本当に、本当に「おつかれさま」

「もう、ないですかね、岡崎さんの曲…」
たっぷりの充実感とともに、やっぱり長谷川さんはそう言うのでした。

そういえば晴れ女の私が
雨の小犬
レコーディングの日もトラックダウンの日も
雨でした。