めぐさんより:マルドゥック・スクランブルによせて
劇場アニメ化が決定、そしてめぐさんがバロット役として出演することが発表された「マルドゥック・スクランブル」。
こちらでは、めぐさんが作品に宛てたメッセージをご紹介します。

マルドゥック・スクランブルによせて

あれから5年たちました
あっという間です。その間、私の身のまわりは公私共にいろいろあり、その5年は、確実にバロットと私の距離を広げ、彼女を手離すべきだと思っていました。ずっと。

そう
5年前、赤子が生まれたばかりのテンパりまくりの私のもとへイベントの依頼。
まだホカホカしてそうな、ほっといたらあっつーまに死んじゃいそうな赤子とともに、夜昼もない生活。
(人間の子供ほど、一人じゃ何もできない動物っていないと痛感。キリンなんか速攻立つしね)
「冗談じゃないぞ、こんな状況で赤子を家に置いてイベントで全国なんぞ回れないっす」
と丁重にお断り申し上げ、そのお仕事もなくなりました。(イベント参加が必須条件でしたので)
…と思ったら?1週間後原作本3冊と設定資料とシナリオ状の冊子が送られてきました。
あらら?これはいったい?「イベントに参加できないからキャストから外れるというのは本末転倒ということになり、今一度出演検討を」というお手紙がそえられておりました。
そして、5分後。原作3ページで引き込まれ、出演を決意している私がおりました。(単純)。
原作本3冊の旅は、私の中に確実に一つの命を生ませました。
製作委員会とか大人の事情とか、そんなものはどうでもいい。ただまっすぐに「バロット」が私を呼んだのだと見えないつながりを強く感じ、その日を待つこととなったのです。イベントや制作発表も無事終了した様子で、(私は参加してないので詳しくは知りませんが)その半年後。一通のファックスが事務所に送られてきました。
「マルドゥック・スクランブルは諸般の事情で制作が中止となりました」と、簡素で温度のないファックス。
結婚式まで決まっていたのに、突然離婚届が弁護士から届いた。みたいな?相手の顔がみえない、とても事務的な処理。短い声優人生の中で始めての体験でした。
制作中止、私の中のバロットが声なき声で泣き、まるく背中を上に向け顔を見せず泣き崩れました。声になるはずだった声。世にでるまでもなく、彼女は勝手に私の中で小さなエッグにこもっていき、そして凍結。
それは「埋まるはずだったスケジュール帳から予定が消えた」そんな簡単なものではありませんでした。
そして時は流れ、流れ、私の知らないところで、冲方さんとスターチャイルドにご縁が生まれ、粛々と、「マルドゥック・スクランブル」が全く別の形で命を吹き返そうとしていたのです。スターチャイルドと「林原めぐみ」という声優の関係は、自分で言うのもなんですがちょっとした、看板女将的な位置?(本当は看板娘って言いたいけど、あえて女将と言っときます、しょぼん)
なので、スターチャイルドでの復活には見えない縛りが生まれる気がして、私はそれが嫌だった。それは作品にとって良いことではないように感じたから。
その話をそれとなく聞きつけた私は「5年前私だったからといって、スターチャイルドだからといって、今私である必要はない。5年という歳月は思っている以上に長い。遠慮や、気使いは、時として作品の方向性を見誤ってしまうことがあります。愛をもって私を切ってください」と信頼するスタッフへ密電。
完全に私の中のケリをつけたつもりでした。
そして2009年の年末、それを飛び越えてのまさかの依頼。戸惑うどころか、何が正しくて、何が作品のためなのかが分からなくなり、気持ちは棚上げ状態。
もう「バロット」という名前すら忘れかけていたのに…。(というか無理やり忘れようとして忘れたんだけど)
2010年年始。出かけた海外で、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとマルドゥックのことを考えました。ずーーーーーーーーーーーーーっと。
もしかしたら「どうせ振られるなら、こっちから振ったほうが楽だったのかしら?」とか「なぜ今?」とか「私とバロットの関係は?」とかとかとかとか。
そして、しのごの面倒なグチグチや、理由や、縁や、説明はいらない。
もう一度、バロットが私を呼んだのだとシンプルに感じること、受け止めることにしました。
でっかい海にでっかい夕日が沈む景色、ただそれだけの景色、毎日起こるのに毎日違う景色。ただそれだけ。
人は勝手にそれを見て涙したり、感動したり、思いを馳せたりすするけれど、そこにある景色はただそこにあるだけ。全ての事実はただそこに存在するだけ。
そこに無理やり意味を探したり、縁を結びつけることはない。(自然にそう思うのは別だけど)その決心とともに、私の中のバロットがあの小さな卵を割って出てきました。
予想以上に硬くて、予想以上に凍てついていたけど、大丈夫。彼女の声なき声がもうすぐ私の声帯をかりて生まれてくる。
彼女の第一声。私自身が誰よりも楽しみなのです。

林原めぐみ

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