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小猿日記
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#10「あの日のワタシに戻ってた」本線AR

『想いのたけを書いてみた』(連載あとがき)

放映が終わって、早3ヶ月。『コザルのAR日記』は中断してしまった状態が続き、わたしの中で『J2』はずっと終了していなかった。何が何でも終わらせなければ!という気持ちがずっとあり、このたびDVDボックス(弐巻)の発売に合わせるという形で間に合わせることが出来て心よりホッとしている。
本線・複線レポートが26本、打ち入りレポート、イベントレポート2本、以上29本、合わせてこのあとがきで30本目。決して多くはないが、毎週、自分が見てきたこと、感じたことなどをつらつらと書いている内に、いつの間にかそれだけ積み重なっていたのだと思うと感慨深い。日記の中では数多くの方々をネタにしてしまったコザル、最後は少し自分のことを書こうと思う。

この連載を始めることになったきっかけは、大地監督が「アフレコのレポートやってみない?小猿のキャラで。完全主観で。」と声を掛けてくださったからだが、当初はこんなにボリュームのあるものになるとは自分でも思っていなかった。普通、ホームページの日記はせいぜい1ページ程度。スタジオの写真をレイアウトに少し入れて丁度いいかな・・・なんて思いながら、1話本線を書き終えた時に、あまりの長さに唖然とした。
「どんな論文だぁっ!!」もはや日記にあらずっ。

こんな文を一体誰が読んでくれるのだろうと思いつつ、こわごわと監督と担当編集者に送ってみた。「面白かったよ、その調子で。」と返事をいただき大変嬉しかった覚えがある。そして、しばらくして、ファンの方々から「日記、読んでいます。」という声がちらほらとあった時、とても感慨深かった。

そんな調子で手探りのまま連載がスタートした。週2日のアフレコの後、夜中に執筆を繰り返す日々。ほんわか恋愛小説を書けない菜ノ花彩のようにちっとも筆が進まず床をゴロゴロ回ってる日もあれば、とても愉快なことがあり、キーも軽く、あっという間に原稿が出来てしまう日もあった。(たいてい前者だった)。くだらないサブサブタイトルが思いついた時はひとしれずニヤリとし、一刻も早くパソコンの前に座りたくなったり、逆に何日も書きたくない日々が続いたり。こんなムラのある未熟なライターに担当の方もほとほと困っていたと思う。ごめんなさい。

せせこましい自宅で書く気が起きなくて、マッドハウスにスペースをいただいて執筆させていただいた時もあった。そんな闖(珍?)入者快く受け入れてくれた『J2』部屋のスタッフさんたち。本当にこの現場はなんてあたたかいんだろうと思った。だから、どんなに寝不足でも筆が進まなくてもわたしはこの日記を書くことを全身で楽しんでいたのだ。
アフレコの現場でも声優の先輩方や、スタッフの方々から「読んだよ。」という声をいただきはじめ、もっともっと頑張ろうという力が湧いた。ダビングや、色彩設計の取材という貴重な経験もさせていただいたこともある。そんな楽しく密度の濃い3ヶ月が続いていた。

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『J2』が終わりに近付く頃、わたしは自分自身の進路について悩む日々に追われ始めた。実はもうずっと前から、収録が始まる頃から悩んでいたのだが、結論を出さなければいけない時期が近付いていたのだ。それは声優としての仕事を続けるか、別の道を歩むかということだった。別の道といっても演じる職業には変わりはないが、時間的に声優業を続けることは出来ない。自分自身で呼び寄せた選択肢とはいえ、念願かなってデビューしたばかりの自分にはあまりに早い分かれ道だった。

『J2』が終わる頃には自分の気持ちもはっきりするだろうと、のほほんと考えていたが、時間切れが迫ってきても自分の本当の気持ちが見えてこない。いや本当の気持ちは、「どちらもやりたい。」ということは分っていた。つまりどちらの道も捨て難かったのだ。誰にも相談することもできず、煮詰まる日々。『J2』が楽しかった。このまま終わらないでほしいと思った。あの頃は自分の気持ちにどう向かい合ったらよいのか分からなかった。数カ月迷い続けた自分は迷うのに疲れ、考えることさえ嫌になっていた。

どうしていいか分からないまま立ちすくんでいる傍ら、次第に収録も終わりに近付いてきた。現場では既にみんな仲良くなって、温かくて、いつも幸せな気分になれた。
「こんな楽しいことをあきらめられる?」
自問自答を繰り返すことにも疲れ果て、いつしか、もう「このまま自分は声優の仕事を続けるんだろうな。」と漠然と思いはじめていた。そして、またそのように自分の気持ちを説得し始めていた。もうひとつの道を心の奥に少しずつ封印しながら・・・

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そんな時、11話の台本が手元に届いた。タイトルは『真路を決めるときだった』。
自分の行くべき道、なすべきことが分からなくなってしまった自由が、心を閉ざしつづけ、父・彩が娘に語り続ける回。その台本を読んだ時、自由と彩の会話がそんな自分の今の心境にスッと重なった。
『わからない・・・自分で決められない・・・怖い・・・だめだったら怖い・・・』
迷っている自由、逃げている自由は、「どちらを選択しても後悔する。」と思い最後の決定が出来ない自分の気持ちと同じだった。それに対して、彩の言葉がガツンと響いた。
『失敗はな・・・失敗してみねえとわからねぇだろ』
『失敗したらまたやり直せ、何度でもやり直せ、何度でも、ああ何度でも。』
『お前の一番やりたいと思っていることをやれ。心のままにやれ』

それを読んでから、もう一度自分の気持ちを考え直してみた。もう一つの世界を見てきたい気持ちを押し殺すことは、自分に嘘をついている、それだけは分かる。心の奥底に封印しかけた箱をふたたび開き、手にとって眺め、考え直した。色々な人に相談をし、悩み、師の言葉を受け、様々な葛藤の末に一つの結論に辿り着いた。そして大地監督に報告をした。

「ようやく掴みかけた声優としてのチャンスに後ろ髪はひかれます。ものすごく。そして不安もあります。いえ、不安ばかりです。しかし彩の言葉に勇気を貰い、自分で決めました。自信と実力をつけるために、わたしはもうひとつの道を歩みます。」と。おそるおそる出したメールに数時間後返信が届いた。
「よくぞ言った。俺も彩の言葉で返す。『お前がどの道を選んでも俺は応援する』」

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『J2』というアニメーションによって、デビューし、様々な出会いを経験し、最後に自分の進路を決めてくれた。わたしの背中を押してくれたこの番組への感謝ははかりしれない。
アニメーションに関わる多くの方は「夢や希望」を与えたいと思いながらこの仕事をしている。だが自らが身をもってその恩恵に預かることが出来たことは幸運だと思う。
ひとそれぞれ、受け止め方は違うけれども、少なくとも自分は自分にとってそういう力を持つアニメーションに出会えて幸せだった。

送別会の時に安原麗子さんが、『十兵衛ちゃん』のEDを歌ってくださった。
『♪この道、道の向こう、何かが・・・何かが待つ・・・』

何度も聴いた曲なのに、これほど心に響いた瞬間はない。涙がとめどなく溢れた。コザルは小猿のままでいたかった、ずっとあの温かさの中にいたかった。けれども時を止めたままにすることはできない、どうすることもできない。だからこそ、より輝くものを手に入れるため、道の向こうを目指してずっとずっと歩いていこうと決めた。自由はラブリー眼帯を手にとって、フリーシャに立ち向かっていき、そして戻ってきた。自分もまた一番苦しい道を選んだのだと思う。自分は自分のラブリー眼帯を手にとった。しかし、その後どうなるかは自分次第である。けれども『J2』はいつでもわたしの原点である、迷った時はいつでもここに立ち戻り、そして初心にかえろうと思う。

♪SWEET DREAMS AND MEMORIES FOREVER FOREVER 見知らぬ街をめざし
 FOREVER FOREVER後ろ振り向かないで
 FOREVER FOREVER 何かをつかむまで・・・   

長くなりましたが、最後に、チャンスをくださった大地丙太郎監督、長濱博史氏、たなかかずや氏、担当として、わたしの再三の編集の変更などに快く応じてくださったキングレコードの森永美智子さん、笑顔で執筆を応援してくださった中山豪さん、山中隆弘さん、ダックスの平田哲氏、大室正勝氏、ご迷惑をお掛けいたしました。いつもマッドハウスで遊んでくださった馬越嘉彦氏、宮下新平氏、西井輝美さん、そして日記のネタにしてしまった声優の先輩方、アフレコ現場以外でも、諸澤昌男氏、笠井信児氏、奥田維城氏、中野陽子さん、松本ゆきをさん、高井みゆきさん、藤川玲子さん、堀川佳典氏、見学の時は有り難うございました。そしてここに書ききれませんが『J2』でお世話になった方々、出会った方々のすべてに感謝しております。

何より、この作品を応援してくださったすべてのファンの皆様にも深い感謝を込めて。
お待たせしてしまいまして申し訳ございませんでした。立ち止まってもまた書き続けられてこられたのは、皆様が応援してくださったからに他なりません。最後までお読みくださって本当にありがとうございました!

またいつか必ずどこかでお会いしましょう☆


平成16年7月7日 新子夏代



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(C)大地丙太郎・マッドハウス/j2製作委員会