『少女革命ウテナ』のBlu-ray BOX発売を記念して、オールナイト上映イベントが、12月8日(土)にテアトル新宿で行われた。
これはHD画質になった『ウテナ』を大スクリーンで鑑賞しようというもので、上映されるエピソードは、幾原邦彦監督が自らセレクト。
「川上とも子セレクション」というテーマで、2011年に亡くなった天上ウテナ役・川上とも子さんの、
『ウテナ』での演技を振り返ることのできる話がチョイスされている。

上映の前にはスターチャイルドの池田慎一プロデューサーを司会進行に、幾原監督によるトークコーナーがあり、
途中には「TOMOKO KAWAKAMI 1970-2011」と題された、川上さんの写真や映像がスクリーンに映しだされるコーナーもあり、場内は川上さんを惜しんだ。
まず、今回Blu-ray BOXが発売されるにあたり、登壇した幾原監督に池田プロデューサーが質問する事から始まった。


――テレビ版を劇場で公開するのは初めてですね。

幾原「15年前のテレビ作品を見に、わざわざ日本中からこれほどの人が集まってきてくれたことに感動しています(笑)」


――今日はブルーレイの映像が放映されます。

幾原「HDリマスターだから、相当クオリティは高いです。なので15年前には見えなかった細かい部分が見えると思いますよ(笑)。実は昔、ビーパパスのスタジオにも映写機があって、ラッシュ確認に使用していたんです。そのとき使っていたスクリーンが、丁度今日の劇場のものと同じくらいの大きさだったんですよ(笑)。こんな大きなスクリーンで映されるとわかっていたら、もう少しクオリティを上げたんですが(笑)」


――今日上映されるのは、監督がセレクションした11話分になります。

幾原「今回は川上(とも子)さんの声の変遷がわかるようにセレクトしました。川上さんは稀有な役者さんで、いろんな代表作がありますが、『少女革命ウテナ』は彼女の初主演作品です。1話の彼女が持っていた初々しさが、最終話にいたる流れの中でどう変化していったのかを感じてもらいたいです」


――他にセレクションの際に気をつけた部分はありますか?

幾原「流れを追うためには最初と最後が必要だと感じたので、1・2話と38・39話は必須でした。それと、たまにセクシーな話があるじゃないですか(笑)。これをみんなで見るのは気まずいだろうから外してあります(笑)。実は音声の調整のときにスタッフとセクシーなシーンを見る羽目になったんですが、かなり気まずかったですね(笑)」


――『少女革命ウテナ』が放映されてから15年になります。制作当時の思い出を教えてください。

幾原「当時は僕が30代で、川上さんや他のスタッフは20代と、みんな若かったんですよね。ビーパパスのスタジオにはさいとう(ちほ)先生も来てくださったり、川上さんも何度も遊びに来てくれましたが、みんな若いから野心がありましたね。それにとてもチャレンジングな企画だったので、軋轢もあったし、トラブルもありました。
でも、だからこそ熱量の高い作品になったんじゃないかと思います。熱量の高い作品を作る現場は、普通じゃない現場になるんですよ。そんな熱量の高い作品にしたいという気持ちを、スタッフが共有できたと思っています。
でもこういうことは、やろうとしても中々出来ることじゃない。たまたまなんです。時代に乗れたんですよ。それにあの頃のぼくらは、上の人間にやらされるのではなくて、自分たちが主導してやっていくという気概と希望を持っていました。これは俺たちが好きにやっていいんだと。ただ、暴走したときに、止めてくれる大人がいないのはけっこう大変でした(笑)」



そしてここで、ゲストとして、企画・原作集団ビーパパスの一員で、原案・漫画を担当したさいとうちほ先生が舞台に登場。
さいとう先生も交えてのトークが始まった。

――最初に川上さんにお会いしたときのことをお聞かせください。

幾原「最初がいつかは実はよく覚えてないんだよね(笑)」

さいとう「私は1話のアフレコのときにお会いしたのが初めてです」


――初めて川上さんの声を聞かれたときの印象はいかがでした?

幾原「ウテナの声はオーディションで決めたんですが、最後に残った数名の中でも、特にピュアな声をしていたんです。それが選考の決め手になりました」

さいとう「私が最初に漫画でウテナを描いたときは、シリアスなイメージのキャラクターだと思っていたんです。でも、アニメになって川上さんの声を聞いたら、すごくのんびりしてるイメージだったんですよ(笑)。イメージと全然違ったので、すごくびっくりしました」


――川上さんの声が作品やキャラクターに影響を与えたのでしょうか。

幾原「川上さんの声をウテナにフィードバックしたことにより、最初のイメージよりおおらかなキャラクターになったと思います」

さいとう「作品というのは、色々な要素が少しずつ積み重なって形になっていくものなんです。川上さんの雰囲気がウテナというキャラクターや作品の方向性をどんどん変化させていく過程は、私にとってすごく新鮮でした」

幾原「主人公を男装している少女にしようと決めたときに、宝塚の男役のように、きりっとした声をイメージしたスタッフは多かったと思います。ぼくもそうだったんですが、もうひとつそのイメージを更に超えたニュアンスが欲しいと思っていたんです。主人公を宝塚の男役のような声にしてしまうと、宝塚のパロディに見られてしまうかもしれないという危惧があったので。当時新人でだった川上さんのピュアさが、ぼくの持っているオーダーに答えてくれるのではないかという期待がありました」


――当時の川上さんのエピソードを教えてください。

幾原「何度かビーパパスのスタジオに遊びに来てくれて、みんなで飲みにいったりしましたね。あと、打ち上げのときにスタッフで温泉に行ったんですよ」

さいとう「行きましたねー」

幾原「その打ち上げの旅館を予約してくれたのが、実は川上さんなんです(笑)。そういう風に、みんなの面倒を見てくれる子だったね。場を盛り上げて、幹事を買って出てくれる子だった。まだ若い川上さんが、率先して盛り上げてくれていたのはありがたかったです。今、『監督! 温泉予約したからみんなで行きましょう!』なんて言ってくれる若い子はいませんね(笑)」

さいとう「劇場版のときのお話なんですが、舞台挨拶が終わった後、川上さんとたまたまお手洗いでいっしょになったんです。そのときに、川上さんが『少女革命ウテナ』が終わるのがさみしいと、半ベソをかきながら私に話していたのがすごく印象に残っています。すごくウテナに入れ込んでいたんだなと思います」



そうして川上さんを振り返るお話が進む中、ここでもうひとりのゲストが。川上さんの母親、賤子さんが舞台に登場した。
賤子さんは、会場にあいさつをすると、『ウテナ』当時の川上さんのことを話してくれた。

川上「こうしてこの場に立っておりますと、こんなにもたくさんの人の心の中に、とも子の存在が残っているんだなとわかって、すごくうれしいです。でも、本当でしたら、私の代わりにとも子がここに立っていなければいけないのに、いないということが悔しいし、残念です。悲しいです。
ウテナを演じるにあたっては、とも子自身も初めての主役だということで、この奇妙奇天烈な女の子(笑)をどう表現すればいいのかすごく悩んでおりました。実は、とも子は桐朋(学園芸術短期大学)の演劇(専攻)を出ておりましたが、そこで指導を受けておりました蜷川幸雄先生から、『ぼくは君が声優になるのは反対です。あまりにもったいない』と御葉書をいただいていたんです。とも子は声優になるか、女優になるか、とても悩んでおりました。
ウテナはそんな瀬戸際でいただいた役で、とも子はこの役をどう表現するかでこれからの一生が決まるんじゃないかと思っていたようで、はたで見ていても、かわいそうなくらい悩んでおりました。それで最後にたどり着いた境地が、自分が今まで勉強してきた演技を、すべて声に込めるということだったようです。こうしてみなさまに認めていただけるまでに努力していたんだなと、私もうれしく思っております。
実はとも子が入院中に、監督とちほさんふたりそろって病室にそろってお見舞いに来てくださったことがあるんです。おふたりがお帰りになられたあと、とも子は『私も早く元気になって、あのふたりと一緒に仕事がしたい』とずっと言い続けておりました。この場にいてくださるかたみなさまが、とも子のことを思っていてくださるのは本当にうれしいです。ありがとうございました」

そして賤子さんのお話が終わると、上映が始まる前の最後の質問が、幾原監督とさいとう先生に投げかけられた。

――まもなく上映会も始まりますが、今改めて『少女革命ウテナ』をご覧になるご感想は?

さいとう「実は、昨日1話目から見直したんです。今見てみると、なにもかもが違和感だけで成り立ってるようなすごい作品だと思いました(笑)。私の絵も川上さんの声も音楽も、いろんなものがマッチしてないんですよ。なにもかも異分子だらけのものが、1話ごとに変な方向に進んでいくんですよ(笑)」

幾原「変な方向ですか(笑)」

さいとう「いい意味ですよ(笑)。形がどんどん作られていく過程がよくわかって、監督が普通じゃないものをもとめてたんだなというのはよくわかりました。だからみなさんも改めて1話を見てみてください」

幾原「劇場のオーディオ環境はぼくも体験してません。今日ここにいらした方は相当運がいいと思います。実は2チャンネルステレオの音も、今ブルーレイ用に仕込みなおしてるんです。当時のテレビはスピーカーがしょぼかったんですけど、最近のテレビはサラウンド仕様になってるんで、今の機材に合わせて調整をかけてます」


――では最後に、一言ずつお言葉をいただけますでしょうか。

幾原「今日は川上さんの15年前の仕事を、劇場のすばらしい環境で聞いていただけることに興奮しています。みなさまも楽しんでください」

さいとう「彼女が生きた証であるウテナを、今日みなさんに見ていただけるのは、川上さんにとってもうれしいことだと思います。今日はみなさまも楽しんでいってください」



こうして冒頭のトークは終わり、「川上とも子セレクション」の上映がスタート。
第1話「薔薇の花嫁」、第2話「誰がために薔薇は微笑む」、第7話「見果てぬ樹璃」、第9話「永遠があるという城」、第12話「たぶん友情のために」、第14話「黒薔薇の少年たち」、第23話「デュエリストの条件」、第25話「ふたりの永遠黙示録」、第34話「薔薇の封印」、第38話「世界の果て」、第39話「いつか一緒に輝いて」の、全11エピソードが明け方までかけて上映された。
イベント参加者にとっては、『少女革命ウテナ』と川上とも子さんの魅力を大スクリーンで振り返ることのできる、貴重な体験になったに違いない。





©ビーパパス・さいとうちほ/小学館・少革委員会・テレビ東京 c1999 少女革命ウテナ製作委員会
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