幾原「15年前のテレビ作品を見に、わざわざ日本中からこれほどの人が集まってきてくれたことに感動しています(笑)」
幾原「HDリマスターだから、相当クオリティは高いです。なので15年前には見えなかった細かい部分が見えると思いますよ(笑)。実は昔、ビーパパスのスタジオにも映写機があって、ラッシュ確認に使用していたんです。そのとき使っていたスクリーンが、丁度今日の劇場のものと同じくらいの大きさだったんですよ(笑)。こんな大きなスクリーンで映されるとわかっていたら、もう少しクオリティを上げたんですが(笑)」
幾原「今回は川上(とも子)さんの声の変遷がわかるようにセレクトしました。川上さんは稀有な役者さんで、いろんな代表作がありますが、『少女革命ウテナ』は彼女の初主演作品です。1話の彼女が持っていた初々しさが、最終話にいたる流れの中でどう変化していったのかを感じてもらいたいです」
幾原「流れを追うためには最初と最後が必要だと感じたので、1・2話と38・39話は必須でした。それと、たまにセクシーな話があるじゃないですか(笑)。これをみんなで見るのは気まずいだろうから外してあります(笑)。実は音声の調整のときにスタッフとセクシーなシーンを見る羽目になったんですが、かなり気まずかったですね(笑)」
幾原「当時は僕が30代で、川上さんや他のスタッフは20代と、みんな若かったんですよね。ビーパパスのスタジオにはさいとう(ちほ)先生も来てくださったり、川上さんも何度も遊びに来てくれましたが、みんな若いから野心がありましたね。それにとてもチャレンジングな企画だったので、軋轢もあったし、トラブルもありました。
でも、だからこそ熱量の高い作品になったんじゃないかと思います。熱量の高い作品を作る現場は、普通じゃない現場になるんですよ。そんな熱量の高い作品にしたいという気持ちを、スタッフが共有できたと思っています。
でもこういうことは、やろうとしても中々出来ることじゃない。たまたまなんです。時代に乗れたんですよ。それにあの頃のぼくらは、上の人間にやらされるのではなくて、自分たちが主導してやっていくという気概と希望を持っていました。これは俺たちが好きにやっていいんだと。ただ、暴走したときに、止めてくれる大人がいないのはけっこう大変でした(笑)」
幾原「最初がいつかは実はよく覚えてないんだよね(笑)」
さいとう「私は1話のアフレコのときにお会いしたのが初めてです」
幾原「ウテナの声はオーディションで決めたんですが、最後に残った数名の中でも、特にピュアな声をしていたんです。それが選考の決め手になりました」
さいとう「私が最初に漫画でウテナを描いたときは、シリアスなイメージのキャラクターだと思っていたんです。でも、アニメになって川上さんの声を聞いたら、すごくのんびりしてるイメージだったんですよ(笑)。イメージと全然違ったので、すごくびっくりしました」
幾原「川上さんの声をウテナにフィードバックしたことにより、最初のイメージよりおおらかなキャラクターになったと思います」
さいとう「作品というのは、色々な要素が少しずつ積み重なって形になっていくものなんです。川上さんの雰囲気がウテナというキャラクターや作品の方向性をどんどん変化させていく過程は、私にとってすごく新鮮でした」
幾原「主人公を男装している少女にしようと決めたときに、宝塚の男役のように、きりっとした声をイメージしたスタッフは多かったと思います。ぼくもそうだったんですが、もうひとつそのイメージを更に超えたニュアンスが欲しいと思っていたんです。主人公を宝塚の男役のような声にしてしまうと、宝塚のパロディに見られてしまうかもしれないという危惧があったので。当時新人でだった川上さんのピュアさが、ぼくの持っているオーダーに答えてくれるのではないかという期待がありました」
幾原「何度かビーパパスのスタジオに遊びに来てくれて、みんなで飲みにいったりしましたね。あと、打ち上げのときにスタッフで温泉に行ったんですよ」
さいとう「行きましたねー」
幾原「その打ち上げの旅館を予約してくれたのが、実は川上さんなんです(笑)。そういう風に、みんなの面倒を見てくれる子だったね。場を盛り上げて、幹事を買って出てくれる子だった。まだ若い川上さんが、率先して盛り上げてくれていたのはありがたかったです。今、『監督! 温泉予約したからみんなで行きましょう!』なんて言ってくれる若い子はいませんね(笑)」
さいとう「劇場版のときのお話なんですが、舞台挨拶が終わった後、川上さんとたまたまお手洗いでいっしょになったんです。そのときに、川上さんが『少女革命ウテナ』が終わるのがさみしいと、半ベソをかきながら私に話していたのがすごく印象に残っています。すごくウテナに入れ込んでいたんだなと思います」
さいとう「実は、昨日1話目から見直したんです。今見てみると、なにもかもが違和感だけで成り立ってるようなすごい作品だと思いました(笑)。私の絵も川上さんの声も音楽も、いろんなものがマッチしてないんですよ。なにもかも異分子だらけのものが、1話ごとに変な方向に進んでいくんですよ(笑)」
幾原「変な方向ですか(笑)」
さいとう「いい意味ですよ(笑)。形がどんどん作られていく過程がよくわかって、監督が普通じゃないものをもとめてたんだなというのはよくわかりました。だからみなさんも改めて1話を見てみてください」
幾原「劇場のオーディオ環境はぼくも体験してません。今日ここにいらした方は相当運がいいと思います。実は2チャンネルステレオの音も、今ブルーレイ用に仕込みなおしてるんです。当時のテレビはスピーカーがしょぼかったんですけど、最近のテレビはサラウンド仕様になってるんで、今の機材に合わせて調整をかけてます」
幾原「今日は川上さんの15年前の仕事を、劇場のすばらしい環境で聞いていただけることに興奮しています。みなさまも楽しんでください」
さいとう「彼女が生きた証であるウテナを、今日みなさんに見ていただけるのは、川上さんにとってもうれしいことだと思います。今日はみなさまも楽しんでいってください」
©ビーパパス・さいとうちほ/小学館・少革委員会・テレビ東京 c1999 少女革命ウテナ製作委員会
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