FILE1FILE2FILE3FILE4FILE5FILE6FILE7FILE8FILE9FILE10FILE11
FILE1「漂流」
土岐耕一(伊藤淳史)の毎日はそれなりに幸福だった。それなりに仕事をこなし、妻のゆきえ(浅見れいな)とも上手くやっている。
ゆきえは妊娠八ヶ月。もうすぐ自分が父親になるのだという事実は信じられないが、最近は早めに帰宅するようにしている。
「お前、最近ますますつまんなくなったな」、同僚に陰口をたたかれながらも。
それなのに、ゆきえはマタニティブルーで最近キレやすくなっている。あの「運命の日」の前夜も、ささいなことから二人は大喧嘩してしまった。
翌朝、まだすねて寝込むゆきえの後姿は、後々まで、土岐の目に焼きつくことになる。
土岐は時折り「初恋の人」を思い出した。学校中の男子があこがれていた女の子・遠野果穂(KIKI)。
最も衝撃的な記憶は、通っていた学習塾が停電に見舞われたとき、唐突に、土岐の鼻をペロっと舐めた、いたずらっぽい目だ。
「あれはいったいなんだったんだろう」、今でも考え込んでしまう。結局土岐は遠野に思いを告げることはできず、淡い初恋は藻屑と消えた。
その日、ゲリラ豪雨による鉄道の運休によって、帰宅しようとした土岐は足止めをくらった。途方にくれて街をさまよう土岐。
目に入ったのは、今話題の「インターネットカフェ」。マンガ見放題、ドリンク飲み放題。リクライニングシートも快適だ。
そこは、現代社会の縮図。老若男女、お互いを全く知らない人間たちが出入りしている。
そこで土岐は、ネットカフェに似つかわしくない女・遠野を見かけた。建築関係の仕事をしているという遠野は、以前にもましてキレイで、魅力的になっていた。
奇跡のような再会にあの頃の気持ちが蘇えり、話がはずむ二人。
「このまま電車が動かなくて、土岐君もここに泊まることになったらさ、明日、朝ごはん一緒に食べない」。遠野の言葉に土岐はにやけた。
「ドーン」突然の衝撃音だった。シートで眠っていた土岐は飛び起きる。ピーという不快な音が、店中のパソコンから唸りをあげた。
音は鳴り止まず、客たちは店員に詰め寄って騒然とする。落雷?電磁波的なトラブル?さらに大きな衝撃音に店内は暗転する。